キューバ旅行記 8日目(2/23)

12時頃に目を覚まし、洗濯と風呂を済ませる。どうも疲れが取れないような気がする。
そうか、今まで何度か日本が恋しくなったが、ずっとキューバに滞在している疲れが溜まってきたのかもしれない。
それでも外に出たいと思うほどには回復している。昨日は昼下がりでわからなかったが、サンティアゴはハバナよりも暑い。日本の真夏以上の強い日差しが打ちつける。とはいえ手がカサカサになるくらい乾燥しているので、日影に入ればだいぶ涼しくなる。

泊まっているcasaの前

泊まっているcasaの前

政府公認のcasaのマーク

政府公認のcasaのマーク

マルテ広場で一休みしていると、子供たちが集まっているのが見えた。何人かは道着を来ている。先生のような人がやってきて、輪になって準備運動を始めた。屈伸や震脚、もも上げのようなもの。さらに向こうに目をやると、漢字で「柔道」の看板が見える。そうかあそこの柔道教室の生徒か。

マルテ広場に立つオブジェ

マルテ広場に立つオブジェ

柔道場

柔道場

競争がないので商品の種類がとんでもなく少ない

やっと食欲が回復してきたので、ハバナでは見つけられなかった庶民飯を食べたいと思った。
キューバの貨幣には外国人向けのcucとキューバ人向けのcup(ペソと呼ぶ。MN=モネダという表記もある)の2種類ががあり、1cuc=およそ25cupになる。つまり1cup=4円だ。
屋台があったので値段を見てみると12と書いてある。12cupならだいたい50円だ。早速買ってみると鶏肉とバナナチップが入っている。ちょっとしたおやつみたいなものか。バナナは特に甘くなくて少し塩気があるくらいだが、鳥肉はしっかり味がついていてうまい。
他の店ではサンドイッチを買ってみた。ハムとチーズが入って10cup=40円。パンがパサパサしていてうまくないが、ハバナでは一食10cuc、1000円くらい払っていたのでこれは安い。

バナナチップと鶏肉

バナナチップと鶏肉

豪勢なハンバーガー。安いものなら5cupで買える

豪勢なハンバーガー

食後のコーヒー

食後のコーヒー。独特の甘さがある。1cup。

パラダイスの意

パラダイスの意

今日は土曜日だからか普段より街が浮かれているようだ。そこらじゅうで音楽がかかっていて酒を持った若者がいる。私の好きなクラシカルなサルサではなく、レゲトンなどのクラブ音楽なのが残念だが。中心のドローレス広場では若い男女が音楽に合わせてダンスをしている。
いいもんだなと思ってオープンスペースでダンスを眺めながらビールを飲んでいると、老人が「This is cuba!!」と突然話しかけてきた。そうだな、日本にはない空気だ。この浮かれて自由な雰囲気の中にいるとなんとなく解放されたような気分になる。

ドローレス広場

ドローレス広場

ダンスを撮っているとまた話しかけられた。今度はこの暑いのにコートを着てステッキを持った、何だかヘンテコな男だ。あまり英語は話せないらしく、ダンスを指して何か言っていた。おもむろにピンポン球を取り出し、流れるような動きでピンポン球を隠しては思いもよらぬ所から出してくる。マジシャンだったのか。金は出すつもりないんだがなあ。今度はカタコトの英単語とジェスチャーでマジックを続ける。
「あんたの5cucを燃やしてまた元に戻してみせよう」
これは5cuc取られるパターンだ。1cucならあげてもいいかと財布を出すと、開くと同時に一枚だけあった5cuc札を見つけ取り上げマジックに使ってしまった。なんて速さだ。
マジックの後、5cuc返してくれない?と言うとすかさずポケットから何枚もCDを出して、
「俺はベニービリーというミュージシャンだ。サルサ、マンボウ、色々な音楽をやっている。これで5cucだ」
まあ記念になるしいいかと思い、その中から好きなジャンルのSKAのCDを買うことにした。CDというか、CD-Rを紙で包んだだけのものだが。写真を撮っていいぞ、と言うのでありがたく数枚撮らせてもらった。

これで終わりかと思ったが、そのまま真顔で手を合わせたり太極拳のような踊りを始めた。
「これはクンフーだ」
「ああ中国のだっけ。でも俺は日本人だよ」
「日本人か。サムライ、サムライ。メグミサンを知っているか。日本のサックスプレーヤーだ。一緒に演奏した。あとはアキラ」
「映画監督の黒澤明?」
「そうだ。お前はチャオリー。お前の親父もチャオリーだ。」
いまいち要領を得ない話をしていると雨が降ってきた。
「カモン、ビールを飲みに行こう」
そう言ってベニーは一人歩き出した。たぶんおごってもらうつもりだろうし東南アジアではまずしないが、ちょっとおもしろそうだと思ってついていくことにした。

ヘイベニー!と歩きながらベニーは少年、おっさんなど色々な人に声をかけられる。変な人だし顔が広いんだろう。ただ今まで行った国では顔が広いイコールいい人では全くないので警戒は解かない。

通りかかったバーに急に入り、客に何か話している。友達がいたのかと思ったが話しかけられた客はキョトンとしているようだ。こっちへ来いと手招きし、カウンターでバーテンに何か話しているが、ベニーの目も見ずにahとかharとか見るからに適当な対応をしている。外国人の私の、ビールくださいの方がまだ通じているようだ。乾杯してからもベニーはバーテンに何か話しているが、バーテンはまるで無視だ。完全に招かざる客のようだ。
「行こう」
ビールを飲み干すとすぐに外へ出た。

「あいつらはファックだファック!私の家に来なさい。私の歌をプレゼントしよう」
さすがに家は危険だなと思いながらも、おもしろそうと思う自分もいた。インドなら出された睡眠薬入りのお茶を飲んで身ぐるみ剥がされるかクレジットカードの限度額までニセ宝石を買わさせるところだ。

だが好奇心の方が優ってしまっている。こうして歩いている間にも、突然立ち止まって手を合わせながら空を仰いだり、道行く人に向けていきなり太極拳の動作をして煙たがられたりしている。なんなんだこのおっさんは。

急に止まって天を仰ぐ

急に止まって天を仰ぐ

家の前まで来た。幸いこの辺は何度か通ったので土地勘はある。もしもの時、家のカギはすぐ外せるか、パスポートはきちんと隠せているか、脱出した後どこへ逃げるかを確認して中に入った。
家では60代くらいの女性が電話しており、横のソファでは1歳くらいの女の子が眠っている。一人暮らしだと思っていたので意外だ。だが油断してはいけない。家族ぐるみでもてなされて身ぐるみ剥がされるケースもある。電話の内容が気に入らないのか、ベニーが何か口を挟んだり、受話器を取り上げようとするのを女性が制止したり、しまいにはベニーが怒った様子でどこかへ電話をかけたりと、やっぱり一癖あるようだ。

電話が終わるとベニーが私を紹介してくれた。奥さんのようで少し困った顔をしながらも歓迎してくれた。
さらにキッチンの方から70代くらいと40代くらいの女性が出てきた。40代くらいの女性はマイベイビーと紹介した。子供らしい。入口の壁にはビリーの様々な写真が貼ってある。結婚式、アップでコーラを飲んでいる写真、相変わらずステッキで変なポーズを取っている写真。そしてチャオリーだ、と言って指差した写真にはブルースリーが写っていた。そうかさっきお前はチャオリーと言っていたのはブルースリーに似てるって意味だったのか。

壁の下の方に写真ではなくライブ告知のフライヤーを見つけた。Ska Cubano (cuba)と書いてある。ハッとして、
「これってあんたのバンド?」
「そうだ」
「俺このバンド知ってるよ!日本で聴いてた!」
「!!!なんてこった!ハッハッハ!」
ビリーは目を丸くして叫んだ。
そう、スカをよく聴いてた頃、友達に聴かせてもらったのがこのSka Cubanoだったのだ。そういえば買ったCD-RにもCubanoと書いてあったが、キューバの、という意味かと思っていた。

ベニーは自分が載っている雑誌を見せてくれた。マジシャンとしてではなくプレイヤーとしてだ。フジロックにも出ていたらしく、パンフレットを見るとクレイジーケンバンドと同じステージで演奏していた。

フジロックのパンフレット

フジロックのパンフレット

早速バンドの曲を再生し、合わせて歌う。ボーカルだったのか。ダンスも独特でおもしろく、真似したいくらいだ。楽しそうに踊るベニーを、奥さんが「あんた邪魔だよ」と退けて家事をするのも笑える。
おもしろいこともあったもんだ。毎回こんなことしちゃいかんが、今回は家に来てよかった。

数曲歌うとベニーが娘に何か話し、娘はいやいやいいわよと手と首を振った。
「ビールを買いに行こう」
そう言って外へ連れ出し向かいの商店へ入った。
「ビールを3本だ。俺とお前とベイビーだ」
ああ俺が出すってことね。まあ今日は全部出そう。
家に戻り娘にビールをを渡してまた歌とダンスだ。お前ら一緒に踊れよと指差し、ベニー姉と手を取り合ってステップを踏む。ベニーが言うから一緒に踊ってるのでお互いちょっと気まずい。そんなことはお構いなしにベニーはフラフラと部屋の奥へ消えてしまい、かと思えば突然踊りながら部屋に入ってくる。街中でも家でも、ベニーはやっぱり自由奔放なんだ。家族はこの面倒くさいおっさんを、なんだかんだ受け入れて暮らしている。私も私もベニーのキテレツな部分を笑うことができたから今こうしているんだろう。

娘も姉も無理して付き合ってくれてるのもあって、二人で外へ飲み直しに出た。
ドローレス広場に面したオープンカフェで飲んでいると、ベニーに上品そうな老婦人が話しかけてきた。あらベニー、調子はどう?みたいなことを話している。調子はいいよ、ところで俺のCDを買わないか、とまたCDを差し出す。老婦人は、いいえいらないわと笑顔で去っていった。ちょっと関わるくらいなら楽しい人。たぶんこれくらいの距離感がちょうどいいんだろう。

今度は屈強な男が近寄ってきて、挨拶がわりにベニーとカンフーの型の攻防をする。私とも固い握手をし、何か話してくるがスペイン語なのでさっぱりわからない。どうやら何かの格闘技だか筋肉のチャンピオンで歳は57歳だと言いたかったらしいが、そのやりとりをしているうちに奔放なベニーはどこかへ行ってしまった。ホセという男はさらに英単語とジェスチャーで話してくる。
「you beer me」
なんなんだ、ベニーといいビール奢ってくれ星から来たのか。いくらとぼけても熱心に話してくるので、最後にはこちらが折れてしまった。今日は金使うモードだったし、丁寧にお礼を言ってくれたからまあいい。
柔道をやっているらしく、働いている柔道アカデミーに来てみないかと言う。
「あ、マルテ広場の?」
「そう!知ってるのか!俺はそこの先生なんだ!」

酒持ったまま中には入れないんだとビールを飲み干すと、中ではたくさんの生徒が練習をしていた。一人青い道着を着ていた、キューバのチャンピオンだという青年も紹介してくれた。どうだちょっとやっていくか!とホセは言ったが、受け身の取り方も知らないので遠慮しておいた。

だいぶ疲れてきたので、もうcasaに帰らなきゃいけないんだと伝えると、
「もう一つ連れて行きたい所があるんだ!」
「えっ?だから家に帰らなきゃいけないんだって」
「ここからすぐだから!すぐすぐ!」
まああいかとついて行った先はジムだった。営業時間外だったので真っ暗だったが、体育館くらいの広さに全て鉄製の無骨なトレーニング器具が並んでいる。
「ヤー!」
と突然ベニーとやったようなカンフーの型を私に向けてやってきた。私も同じく防御したり攻撃したりするとホセは大喜びして
「you good!!」
と言ってくれた。私は高校時代で文化部だったのだが、なぜか筋トレが流行っていて友達と挨拶がてら同じようなことをしていたのでなんとなく感覚がわかる。いわば脳筋だ。国を越えてもその辺は変わらないのかと思うとなんだか面白かった。
「俺のcasaはこっちだから。今日は楽しかった!ありがとう!」
「オーケー!あ、あそこでビール飲んでく?」
帰らなきゃいけないと言ってるのに本気だからすごい。

casaで少し眠ってから食事に出ることにした。今日はカサのオーナーが勧めてくれた、カサの近くにある店だ。
店内に客はおらず、従業員もヒマそうにしている。オーナーのような男性がにこやかに迎えてくれた。安いと聞いていたがメニューを見てみるとコースで11〜15cucと観光客向けの他の店と同じような値段だ。聞くとカサのオーナーの弟がここで働いているらしい。だからここを勧めたのか。
とはいえ料理は盛り付けも含めて本格的でうまいし、サンティアゴの街明かりを見渡せる眺めもいい。オーナーは、サンティアゴにまだいるならモロ遺跡という所に行くといいとビデオを見せてくれた。

夜はハバナ同様暗い

夜はハバナ同様暗い

casaに帰るとテラスで同じくここに泊まっているイタリア人とオーストラリア人が酒を飲んで談笑していた。だいぶ疲れていたがせっかくなので一緒に飲んだものの、眠くてろくに話もできなかったので早々に部屋に戻って眠ってしまった。

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